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    房一には間もなくそれが雑貨店の主人である庄谷だと判つた。だが、庄谷の方では房一が二三間の所に近づいてもまだぢろぢろ眺めていた。

    「それが、その、来ないわけがあるのさ」

    「そんなことができるもんかねえ」

    読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。

    「どうしませう、ほんとうに!すつかり落しておしまひになつたんですのね。――どうも、さつきから様子がちがふと思つていたんですが、道理で!――さうでしたわねえ、お髯がなくなりましたわねえ」

    「わたし、あれらしいのよ」

    「ウシ!ウシ!」

    「あんまり、ぢつとしとつてもな、身体が生なまに、なるもんぢやから」

    「さうです」

    患者は満足してかへつて行つた。だが、房一は患者以上に満足していた。おれの云ひ方はあれでよかつたかな。もつと噛んでふくめるやうに話して聞かせるんだつたかなと、たつた今自分が云つたり、したことを、もう一度目の前に思ひ描きながら、房一は永い間廻転椅子の中に身をうづめていた。

    口ごもつて、

    「さうですか。それは――」

    「いや、あの晩の、ほんの三二日前です」

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